★アメリカの欺瞞的イラク撤退　（２００７・１・１６）
　この欄には３年執筆していない。いかにアメリカのイラク干渉への批判が風化してしまい、遂にフセインの死刑執行までまるで自然現象のように時間が過ぎ去ってしまったようだ。その間のイラク人民の生死、幸不幸は、命の存在しない砂漠のような扱いを世界中から受けていたわけである。自分の民族がそのような状況に置かれていた場合、我々はどのように生きるのであろうか。
　大量殺戮兵器を摘発するという大義名文で、あれだけの侵略を実行し、内部の武力対立の親米側を擁立する形で、新政権を樹立させ、あらゆる反抗勢力を鎮圧し、一般市民多数を巻き添えにしても国際社会は事実上それを「正義」の行動と認め、日本の自衛隊まで出動するという状況を日本政府は作り出した。その挙句が、矛盾を誤魔化すために今度は憲法九条を改悪して、防衛省に看板を掛け直した。しかし街にはデモも起きていない。暮れにフセイン処刑のニュースが流れ、国際的な批判も多少は流れた。でもそれは処刑の際の不手際の指摘に止まっている。あのままではまるで「リンチ」様相丸だしであり、アメリカ西部劇の「縛り首」のイメージだからだ。しかしこの時点でブッシュはイラクへの２万名近くの増派を決定し、国内の民主党側の批判的な動きにも関わらず、すでに兵力の輸送は終わっているようだ。どうやら、引け際に強力な反対武装勢力を一掃して「はい、もう止めますよ」と口を拭うつもりであろう。今後のアメリカの軍事行動は今までにも増して監視を強める必要がある。「最後っ屁」ほど怖いものはない。 　それと同時にイラク戦争に対する国際的司法活動を活発にして国連に繋げて行くことが大切である。武力の上に立つ司法権を国連に持たせる動きを作るべきだ。既に対イラン、対北朝鮮のアメリカの政策には大きな危険性が匂い始めており、大国と新興後進国の武力開発の対立問題を早く理論的道義的に方向付けることが急務であると思う。経済圏だけに分けての利益的処理を越えなければ、世界はいや地球は破滅に向かう。唯物論の限界である。
　
　 　★カント没後２００年とイラク自衛隊派遣　（２００４・１・１５）　
東京新聞朝刊の二つの記事が僕の心を捉えた。一つは今年が哲学者カントの没後２００年だと「筆洗」欄が伝えている。以下引用したい。
　　「母国ドイツをはじめ西欧各国では、この困難な時代を生き抜く知恵をカントの言葉にもとめている。カントに、平和論の古典ともいうべき『永遠平和のために』（宇都宮芳明訳、岩波文庫）がある。▼この中で、常備軍の撤廃、諸国家の民主化、国際連合の創設などの具体的提案を行っている。啓蒙時代とはいいながら、１８世紀のことばとしては驚きである。さすが、カントは天上天下を見通していた。▼「将来の戦争の種をひそかに保留して締結された平和条約は、決して平和条約とみなされてはならない」「いかなる国家も、ほかの国家の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない」（永遠平和のための予備条項）▼「各国家における市民的体制は、共和的でなければならない」「国際法は、自由な諸国家の連合制度に基礎を置くべきである」（永遠平和のための確定条項）▼カントは生地、ケーニヒスベルクを終生はなれることがなかった。同地はいま、ロシア領カリーニングラードである。しかし、東に隣接するリトアニアと、西のポーランドがことしは欧州連合に入る。新しい国際秩序がここにもひろがっている。」
　　日本の平和憲法の理想像の青写真は、カントの面影が映っていたようにも思える。それが眼の敵にされ、今や膨れ上がってしまった「常備軍」の処理の仕方に梃子摺っている。鬼子に家系を乗っ取られそうである。そしてアメリカの暴力的軍事的なイラク戦争に加担して、既に「空軍」、「陸軍」には派遣命令が出されることが確定している。与党の慎重派、公明党も遂に「ゴーサイン」のスターターの役割を自ら担った。僕の教師歴の背骨を貫いていた「教え子を２度と戦場へ送るな」という「極端な場合」のスローガンが何時の間にか、いや、あっという間に、現実の問題になってしまった。今度イラクに派遣される兵士達の中には、五人の成人になり立ての隊員が居るという。どんな時代になっても軍隊は、その本質は「武装された殺戮集団」なのだ。その中の人間は心を蝕まれて行く。<BR>
　　さて、もう一つの記事というのは、イラクの米兵の戦闘による死以外の死因、つまり事故死や病死などが主だろうが、その１４％が自殺だというのである。
戦場における殺し合いの恐怖、生への執着、愛するものへの切ない愛しさ、自分の信条と強いられる行動との乖離、その中で精神が蝕まれ、自ら死へと突っ走ってしまう。これが日本の若者へも拡大して行く。カントの理想は遠退くばかりである。しかもそうした数字が「軍の機密」として押し隠されてしまうであろう。既に防衛庁の記者会見廃止問題が取り上げられ始めたが、大本営発表だけが「真実」であった昔（軍機密、秘密事項、スパイ、国賊などがひそひそ話で囁かれた人間破壊の時代）のイメージが余りにも見事に再現してくるのを、熱病夢のように恐れている。

★輿論は「派兵」を認めていない（２００３・１２・１３）
　　昨日書いた危惧が、今朝のニュースで解消した。輿論調査が、小泉の派兵の理由説明を認められない、分からないとする国民が６割、派兵そのものに反対が５割を越していると伝えている。心配しているのは僕だけではなかったのでほっとしたが、今度は、それならどうして政府はそれを無視してアメリカとの「密約」を強行しようとするのか。日本の民主主義は今や退廃の道を辿っている。民意を国会が反映していない。政府が多数を嵩にかかって憲法規定外の無法を既成事実にしようと躍起になっている。選挙で多数を得たから国民は常に支持していると傲慢に開き直り、速やかな経済復興を託してあずけられた信任を軍事にまで拡大解釈をして強引に押し通そうとしている。それが多国民の生命にかかわる問題だけに、そして日本国民や国土への危害に係わる問題だけに、声を上げたいと思うのだ。選挙以外の民意の表現が、何故か姿を消してしまった。若者も中年も老人も等しく声を失ってしまった。日本人はデモも街頭演説も座り込みも立て看板もすべて忘れてしまったのだろうか。それらはすべて不法行為とでも考えるようになったのだろうか。明かな重大な不法行為が公然と押し進められようとしているのに・・・。

★「派兵派兵と日本は動く…派兵居よいか住みよいか」
（２００３・１２・１２）
　　派兵に異議の在る人がそんなに少ないのか、僕のような心配をしている人は、本当に少数なのか。小泉とその側近の政治家達の思惑でどんどん派兵は進んで行く。大江健三郎が「私は怒っている」という声明をフランス紙「リベラシオン」に載せた。国民の側の非力さを怠慢を強く批判している。テレビでは、北海道の自衛隊の猛訓練が映し出される。迷彩服に若い兵士の顔が痛々しい。彼らを犠牲にさせたくない。こんな戦争で死なせたくない。この人たちが今度は憎しみの対象となって、戦闘地域がどんどん広がり、それはやがて日本本土、東京へと拡大して行くだろう。日本自身がまるで戒厳令下に置かれているように、国家の統制が普通になってしまうだろう。現在テレビの映像が進んだ事態を映すに従って、国民は諦め、そんなもんだという投げやり姿勢が常態となって行く。権力はその上に胡座をかいて行く。
　　イラクの大量破壊兵器を見つけ出すという大義名分はどこかに吹っ飛び、今や「復興」という名の利権争いが始まっているように思える。アメリカは戦争突入時に批判的だった仏独ロ中に復興への係わりを遮断している。既に本国の大企業は殆ど市場配分を完了しているのだ。それに排除された国々もどのような姿勢でこの「イラクに殴り込みをかけた近代装備のヤクザ」に立ち向かおうというのか。利権争いの視点だけが本音なら、彼ら自身もハゲタカの一員であるに過ぎない。この戦争は何であったのか。何が破壊され、現在どんな危険が存在するのか、人類が生き続けるために何をしなければならないのか、それを真剣に「国連規模で」考えて行くべきだろう。僕の国「日本」も既に「同盟国」に軍事的な、軍事産業的な利益を与えながら、ハゲタカの一員に加わろうとしている。

★遂に日本人も犠牲に（２００３・１２・６）
　　遂に日本人外交官の二人が狙撃された。初めは国道脇で店に立ち寄った所を狙い撃ちされたと報道されていたが、急に走行中を狙撃され、防弾装置のついた車のサイドを貫通して、弾は遺体の中に留まっていたというような報告に変わった。この辺は自衛隊の調査団の報告の「治安は安定」と「テロの攻撃の可能性はある」という表現矛盾と同質の内容を感じるのだ。戦争が事実上ゲリラの形であるにせよ継続している限り、現場は戦場である。正規軍同士の戦いだけが戦争なのではない。第二次世界大戦でも、朝鮮戦争でも、ベトナム戦争でも、それは単に戦場の様相の相違に過ぎなかった。ゲリラの日本の立場の変化に対応した戦闘行為に間違いはない。
　　犠牲者には、口惜しかっただろうと同情で一杯である。彼らの書いたものを読むと、悲惨な状況の中に追い込まれたイラクを何とか救済したいという気持で一杯だったのだろう。現実に体を現場で張っての生き方をしていたのだから、心から敬意を表したい。小泉の考え方とは、全く違った認識で日夜危険を冒していたのだと思う。国連主導を重視し、アメリカの一国専行を批判しているし、その方向で少しでもイラク国民の生活に役立つ援助を願っていたに違いない。
　　メディアは、連日この報道を伝え、複雑な考え方の相違を示している。日の丸に包まれた遺体を見て、僕は涙ぐんだ。政府は、自衛隊派遣の路線をこの悲しみによって前に進めようとしている。これは違うのではないか。現在のような様相の中で無理やりアメリカ寄りの派兵をすることを彼らは望んでいただろうか。きっと「まだ分からないのか」と切歯扼腕しているに違いないのだ。政府は、こうした悲しみを国家意識の高揚に利用し、ミサイル対抗の軍備拡張、日米の軍事同盟化を憲法や国会を無視して、既成事実化して、終局、憲法の改悪を目指しているのは明かだ。
　　誰が、何故イラク戦争を始めたのか。戦争の経緯はその大義名分を立証するものだったのか。イラク国民は、この戦争と現状を歓迎したのか。この原点に立ち返って、世界のすべての国民が再考すべきではないのか。アメリカ主導のまま自国の軍隊を送りこんでいるすべての国は、その引き上げを含めて再検討すべき時なのだ。決して卑怯な退却ではないし、むしろ利権への思惑の無さを立証することにもなろう。アメリカに猛省を促す重要なきっかけにもなるだろう。

★イラクは今なお戦場である。（２００３・１１・１３）
　　この所、いわゆる「自爆テロ」が、バグダッド周辺で毎日のように繰り返され、自国の市民も含め、外国人、国連関係者、赤十字関係者など犠牲者が増えつつある。当然米兵の死者数も湾岸当時のそれを上回っている。米国本土では、大統領選を控え、平和路線を選びブッシュに対抗する民主党の動向も目立ち始め、ブッシュの支持率も下降している。しかしアメリカの国民の「世界の警察」を自負しがちな、特有のプライドは、今後どのように動くかは、微妙である。イラクでの戦費の追加予算は、上下院とも通過した。作りつつある「暫定政権」に治安を任せ、漸次兵力を減らして国内の批判をかわそうとして行くだろうが、その実現は極めて困難だろう。現在、「絶対に撤退はしない」と強気の表明をしつつ、外国の応援を期待しながら、兵力の交替、減少を図っているのではないか。
　　その動きに応じて日本の小泉内閣は、日本の「軍隊」の位置付けを、国民の意識も含めて、戦後培われてきた「平和憲法」の壁を取り壊して国家主義的武装を進めようとしている。拉致問題もその道具となっている。
日米の安保条約を隠れ蓑にして、アメリカに追随する事で当面はやり過ごそうとしているが、アジア諸国の危惧も増大するであろうし、当のアメリカですら、無条件で「守ってあげますよ」と言う筈はない。どんな要求をつき付けられるか分かったものではない。変な親分と心中するのは真っ平ご免だ。
　　「イラク派兵」については日本とアメリカとの認識のズレが滑稽なほど明瞭である。アメリカ「外国が自国の利益を冒してまで米国を援助するには及ばない。今のイラクはどこも戦場である。安全な所などない。安全を第一にする国に来てもらう必要はない。」それに対して、日本「安全な所を確認にして、水の補給など後方の援助を行う。」どちらが実態を示しているかは明かではないか。日本の発想は「ともかく出しておいて、新たな状況が起きればまた何とでも次のステップへの修正が効く。」と言う事なのだろう。なし崩し的展開は、憲法と軍事力の関係で既にお家芸となっている。そのくせ、自衛隊の死者が出た場合の保証は抜け目なく大幅に引き上げられた。香典の前渡し契約であろう。
　　社共が矮小化された今、民主党が、どうこの問題を捉えて行くかは、日本の今後の命運を決める重大な鍵になって来るだろう。